育児事情(0〜3歳児編)

 

夫への産休 チャイルドナース マザーグループ 離乳食 お昼ね 保育システム

 

夫への産休
 出産後5日め、病院から我が家へ戻り、いよいよ本当の育児戦争が始まった。私の場合、もちろん実家なるものはデンマークにないわけで、我が家へ戻るしかない。でも、デンマークでは、私だけでなく、皆ごく当たり前に実家ではなく、 新米ママと新米パパだけで育児を始めるケ−スが多い。というのも、父親に出産 後、2週間の産休が与えられ、赤ちゃんがきた喜びと慣れない育児を、母親といっしょに体験してくれる。

 父親が、このように新生児の頃から育児に関わってくれる事は、子供を大切に し、そして、母親の負担を軽くしてくれる、なんともありがたい習慣だ。私たちも、こうしてふたりだけで育児を始めた。

 デンマークでは、乳母車を押している男性をよく見かけるが、ごく日常的で自 然な事だ。もちろん、男性だけでなく母親も、赤ちゃんを連れてどこへでも出かけて行く。大きな乳母車に赤ちゃんを乗せたまま、電車やバスに乗れる事も、とてもありがたい。デンマ−ク人は、子供をとても大切にするので、赤ちゃんを連れてどこへ行っても、嫌な顔をされる事もなければ、おむつを変えるのに困った 事もない。この国は、育児のやりやすい国なんだと言う事が、改めて感じられ、睡魔と戦いながらも、少しリラックスできた。

 この国には、マタニティブルーと言う表現がない。つまり、育児に追いまわさ れ、出かける暇も余裕もなく、ストレスがたまる、などというようなことは、起こり得ないのである。もちろん、育児はどこの国でも誰にとっても大変な仕事で、ときには、逃げ出したくなることもあるのだろうが、それを内にためる事が ないように思う。12月という寒い時期ではあったが、デンマークの母親たちにならって、私も生後2週間からさっそくお散歩に連れ出し、育児を楽しもうと思った。

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チャイルドナース

 出産後6日め、スンヘスプライヤスカと呼ばれるチャイルドナースから、自宅 に電話がかかってくる。自宅まで来て、赤ちゃんの健康チェックなどをしてくれるのである。頼まなくても、出産と同時に登録されているので、病院から戻った とたんに、いつ訪問しようか、と聞いてくるのである。

 このチャイルドナースは、赤ちゃんの健康状態を調べてくれるだけでなく、いろいろな育児の相談に乗ってくれる。離乳食の指導などもしてくれ、初めての子育てで、分からないことだらけの私にとって、ありがたい存在となる。日本の育 児書も持ってはいたが、所詮、所変われば品変わる、という感じであまり役には立たなかった。こちらでは、おおらかというか、おおざっぱというか、赤ちゃん さえ機嫌がよければ何でもありだ。あまり神経質になりたくない私にとっては、むしろありがたく、日本じゃあなくてよかった、と思う事が多かった。かなり、 いい加減な事をしていたように思うが、息子はスクスク育っている。

 チャイルドナースは、最初は1週間2週間の間隔で来てくれ、赤ちゃんが大きくなるにつれて、訪問の頻度は少なくなってくるのだが、成長に合わせて、その時期に気をつける事などをアドバイスしてくれる。また、体重や身長の測定もしてくれる。体重をはかるのは、ヘルスメーターのような機械ではなく、いわゆる重りの付いたてんびん測りである。スカーフを貸して、と言われ、無かったので 日本の風呂敷を渡した。何をするのかと思ったら、息子を包むように対角になる端と端を結び、結び目を測りにかけた。重りを調節し、測定完了だ。なるほど ね、と、いやに感心してしまう。

 チャイルドナースにいつまで来てもらうか、というのは、自分自身で決めるこ とができる。来て欲しくなければ、ハッキリそう言えば、無理に押しかけてくるような事など決してない。息子の場合、2歳になるまで来てもらっていた。時には、子育ての理想論を語られる事もあったが、基本的にはいいシステムだと思っている。 

 

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マザーグループ
 チャイルドナースが担当している赤ちゃんで、だいたい同じ時期に生まれた赤 ちゃんを持つ母親を5〜6人集め、マザーグループというものが組織される。同じ地域に住む、この母親たちのグループは、週に一度、順番でメンバーの家に集まり、お茶を飲みながら子育ての悩みや、その他共通の話題に花を咲かせる。参加は自由。チャイルドナースから、どうするかと聞かれた。私の場合、デンマ− ク語がまだ全然話せない状態だったので、ちょっと難しいかな、と思っていたところ、それでは、と、私と同じような日本人がいないかどうか、捜してくれると 言う。なんともありがたい話だ。さっそくお願いして、待つ事1週間くらいだったろうか、ひとりの日本人を紹介してくれた。彼女の赤ちゃんは、息子より1ヶ 月半前に生まれた男の子。歩いて20分くらいの所に住んでいた。彼女の場合、在住11年で、デンマ−ク語はペラペラという事を除けば、ほとんど似たような 状況だったので、仲良くなるのに時間もかからず、結局、彼女のマザーグループに、ときどきゲストで参加させてもらうことになる。

 このマザーグループの集いでは、他の子供たちを見ていて気付く事や、お互い に便利なものの情報交換など、なかなか役に立つ事が多いと思った。それに、お互いの家を回るので、各家庭の中で、例えばどんなふうにおむつを変えているの かとか、微妙に違うそれぞれのやり方を見るのも、興味深かった。もうひとつ、どんなふうにお茶でもてなすのか、食べ物でも、知らなかったものを口にする事もあったり、育児以外のことでも、デンマークのことをあまり知らなかった私にとっては、毎回新しい発見があった。

 デンマ−ク人は、もともと家に人を招く事が好きな国民なので、こういうこと も問題なく行なえるのかも知れない。夫への産休や、チャイルドナース、マザーグループという、この国の社会的システムは、この国の育児事情をより明るくし ていると言えるだろう。

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離乳食
 デンマークでは、4ヶ月になるまでは100%母乳を与えるように指導される。 もちろん、母乳の出が悪い場合には、粉ミルクを補足するが、基本的にそれまでは果汁の1滴も与えない。そうすると、母乳の味にすっかり飽きてきているのか、 離乳食にもすぐに慣れ、4ヶ月からいきなり1日2回食を始める。

 離乳食と言っても、最初はあげられるものはごく限られていて、オートミール に数種類の野菜と果物、これを柔らかくして少しづつ与える。日本と違うのは、いっさい味付けしないこと、腹のもちをよくするためにスプーン一杯のバターか 植物オイルを入れること。これは、赤ちゃんが1歳になるまで同じ。変わるのは食べてもいい食品の数が増えていくこと。と言っても、8ヶ月くらいまでは本当 にバラエティーがないので、母親はむしろ楽に思う。卵などは、1歳になるまで絶対に与えない。

 これは、まず4ヶ月までに、母乳でしっかりと基礎体力を作り、そして、食品 を制限することで、できるだけアレルギーの出にくい体づくりをする、ということらしい。まずはしっかりと体づくりをしてから、食事の幅も増やしていこうと いうわけだ。実際、私はデンマークでアトピーの子供を見たことがない。日本にいた頃は、子供に接する機会が少なかったにも関わらず、友人の子供や近所の子 など、必ずと言っていいほど、アトピーの子供を目にした。

 果たして、この離乳食の与え方が、アトピーの有無につながっているかどうか は、根拠もないが、少なくともアレルギーの出にくい体づくり、という点では、デンマーク式離乳食で、育ててよかったと思っている。どちらにしても、だしを 入れて炊けと言われても、だしがなければ日本式の離乳食を作るにも苦労したに違いない。

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お昼ね
 デンマークでは、真冬でも、よほどひどいお天気でない限り、赤ちゃんを外で お昼寝させる。乳母車にのせて、外の新鮮な空気を吸わせながら眠らせることで、肺を強くし、夜の眠りも深くさせることができると言う。最初は、少し抵抗があ った。というのも息子は12月生まれ。生まれて間もないうちから外に寝かせておくのは、やはり不安があった。それと、当時はアパートの3階(日本で言う4 階)に住んでいたため、そう簡単にアパートの内庭においておくこともできなかった。それでも、同じアパートの赤ちゃんを持つお母さん方は、けっこう平気で、 赤ちゃんを内庭において、お昼寝させていた。無線機を使って、赤ちゃんが泣けば、下へ降りていく。そういう光景を見ていても、やはり気が気でなくて、アパートに住んでいた頃は同じようにはできなかった。

 そのかわり、生後2週間から、毎日のようにお散歩に連れ出し、お散歩とお昼 寝をかねて行うことにした。デンマークにいる限りは、できるだけこちらのやり方を、やってみたいとも思ったし、こちらの子供たちの元気な姿を見ていると、 なるほど赤ちゃんの時からこんなふうに鍛えられているからだと、変に納得してしまったからかも知れない。

 息子が1歳になって、郊外の平家に引っ越したため、外でのお昼寝は問題なく 行なえるようになった。安心して庭で眠らせることができる。私も、このお昼間のちょっとした時間を、ゆっくりと過ごすことができるようになった。

 息子は現在、2歳5ヶ月。毎日ではないが、いまでもお昼寝は外でしている。 (2000年5月記)

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保育システム
 デンマークでは、多くの女性が仕事を持っていることもあり、保育システムは 充実しているように思う。日本で言う、保育所にあたるボーゲストゥと呼ばれる所と、ごく普通の家庭で幼児を預かるデイケアーサービスのダウプライと呼ばれ るものがある。母親が働いていなくても、このどちらかに子供を預ける場合が多いように思う。子供に社会性を持たせるため、その方がいいと言う考え方だ。

 このダウプライとは、主婦が6ヶ月から3歳までの子供3〜4人を自宅で預か るシステムで、もちろん、その主婦は専門的な教育を受けた保育のプロであり、家庭的なしつけのなかで、子供たちは朝8時くらいから夕方4時か5時くらいま での間、楽しく時間を過ごす。ダウプライの主婦たちは、6〜7人のグループを組んでいて、お互いに病気の時など助け合って、子供たちが必ず誰かに預かって もらえるような仕組みになっている。また、週に1度、市が持っている大きな家に、このグループで集まり、子供たちは大勢で、団体の中でのルールも学びなが ら、パンを焼いたり、お絵書きをしたり、歌を歌ったりと言う具合に時間を過ごす。保育所に比べ、大人一人当りの見る子供の数が少ない分、目も行き届き、安 心できる保育システムだと思っている。

 息子の場合、1歳9ヶ月になってから、ダウプライに預け始めたのだが、もっ と早くから預けてもよかったと、思ったくらいだった。いまでは、ガールフレンドもでき、それは楽しそうだ。

 母親が働いていなくて、なおかつ自分で子供の世話をしている人ももちろんい る。そういう人たちのためには、ライエストゥという遊び場所が設けられている。小学校の一つの部屋が解放され、このようなお母さんたちが子供を連れて集まっ てくる。週に3日程で午前中だけではあるが、家の中だけでの育児に終わらず、他の子供とおもちゃを共有することなど、子供たちにとっても学ぶところは多いようである。

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